月収100万円という欲求@
僕は以前に訪問販売の仕事を経験した事があります。
主に通信機器、オフィス用品の販売が主だったのですが、
中には信用度の低い高額な商品も沢山ありました。
会社は、商品に魅力を感じないと売れないので、
泊まり込みで研修を行い、社員に商品の良さを最初に徹底的に叩き込みます。
ある意味ここでも洗脳を施すのです。
それを信じてお客様に商品を売るのですが、実際は本当に役に立つものかどうか、
今から思えば定かではありません。
当時、転職サイトを見ていて、偶然目に入ってきたのが、
「月収100万円」という甘い言葉。
固定給ではなく、完全歩合給の訪問販売セールスです。
売れれば大きく稼ぐことができますが、売れなければ給料は貰えません。
実力主義の世界に初めて足を踏み入れた時のお話です。
僕は社会人になって初めての仕事が営業だったので
仕事内容には大きな抵抗はありませんでした。
しかし、正真正銘の営業会社の仕事は想像を絶するものでした。
最初に入って驚いたのが、オフィスには机と電話、そして住宅地図しかありません。
無駄なものが一切なく、まるで夜逃げ前のアジトといった感じでしょうか。
決められた自分の席すらありませんでした。
今思えば人の入れ替わりが激しく、席を決めてもどうせすぐに辞めてしまうから
無駄だと思ったのでしょう。
そこの会社は飛び込みの営業が基本でしたので、毎日毎日訪問販売の繰り返し。
そして、会社に戻ればミーティングで罵倒され、その後、
セールストークの組立やロールプレイングの練習を毎日嫌というほどさせられます。
同じ業界の方ならご存じでしょうが、
ロールプレイングというのは、他の社員や上司が見ている前で、
暗記させられたセールストークを使って寸劇を行うのです。
お客さん役とセールスマン役に分かれて新人は毎日トークを社内で練習します。
こういった会社は口の悪い上司も多く、決められたトークを少しでも間違えると
人格まで否定されるぐらいの勢いで罵倒されます。
「そんな弱気で商品が売れるか。ボケ!」
「もう一回、最初からやり直せ!!」
「もっと腹から声を出せー!」
こんな言葉が毎日飛び交うバリバリ体育系の職場でした。
当然、社内の雰囲気は殺伐としていて、売上と契約以外の会話は殆どありません。
ですから、先輩や同僚の名前すら今では殆ど覚えていないのです。
全部とは言いませんが、訪問販売などの営業で飯を食っている人は、とにかく金の亡者、金儲け主義の人が多かったです。
「とにかく客に考える隙を与えず、ハンコを押させてしまえ!」
「売れた後の事なんか知った事じゃない。」
「契約が取れるまで帰ってくるな」
そんな外道のような人がゴロゴロいる世界でした。
そんなブラック企業の1日の流れはというと
7:00出勤
7:30〜8:00 ミーティング
8:00〜9:00 エリア決め
10:00〜 営業開始
20:00 営業終了
20:00〜 再訪問
22:00 会社に到着
22:00〜 ミーティング
ロールプレイング
23:30 帰社
拘束時間は16〜17時間ぐらいで、契約が取れなければ休日は全て出勤でした。
毎日1チーム3〜4人で車に相乗りして現地で別れ、ひたすら飛び込み、話を聞いてくれるまで玄関のチャイムを押し続けるのです。
最初の頃は先輩に同行してセールスを勉強します。
全てがイカサマに見えた。
実際には、会社から押しつけられたセールストークの内容は時代にそぐわず、殆どの先輩は現場で臨機応変に対応しながらお客と会話をしていくのですが、その内容がもはや詐欺まがいの嘘八百という人ばかりでした。
普通、営業というと最初に名刺を出して挨拶する事から始まり、
徐々に会話を進めながら商品を提案するものだとばかり思っていました。
けれども、訪問販売というのは数と時間が勝負なのだとか。
そのためには、契約以外の無駄な会話は一切なし。
客も「押し売りお断り」という反応がほとんどですが、その際 同行した先輩営業マンの対応にはとにかく驚かされました。
見込みが無いとわかった時点で、会話の途中だろうとなんだろうと、
話をピタッとやめて、無言で振り返り出口に向かうのです。
同行していた僕のことなんか一切お構いなしで置いてけぼりです。
当然そんな失礼な態度を取れば客は怒って会社にクレームをあげますから、
名刺なんて最初に出しません。
その先輩が言うには
「時間がもったいないので、見込みが無いとわかった瞬間から次に向かう」
のが基本だそうな。
後のことなど知ったこっちゃないそうです。(笑)
そんなペースで毎日、朝から晩まで100件以上 「たたく」(訪問する)のです。
すると「まるい客(契約がとれそうな客)」にいつか当たります。
そんな客の家に上がったら、2時間だろうと3時間だろうと深夜だろうと
客が契約書に印鑑を押すまで絶対に帰ろうとしません。
現にその場で数百万の契約をしたケースを何件もこの目で見てきました。
反対に契約の取れそうもない客の事を「からい客」と言うそうです。
ちなみにこの先輩の年収は約2000万だそうですが、そのほとんどが
風俗通いで消えていっているそうです。(笑)
もう一つビックリするのはこの人はこれでも課長という肩書でした。。。
もう一人印象的だったのは、同じチームに「田中さん(仮名)」という
とびきり元気な先輩が一人いました。
ぼくより3か月前に中途入社した人で、
前職は私立探偵という変わった経歴の持ち主。
とにかく、お客さんの懐に入るのが驚くほど上手な明るいタイプの先輩です。
僕が入社したころには既に数十件の契約を獲得していて
すごいスピードで出世していったのです。
只、とにかくトークがでたらめで機関銃のように喋っては、
気がつくと客が契約書に印鑑を押しているというような
大阪の漫才師のようなセールスでした。
例えば
『お客さん、今この電話に変えると毎月の電話代が永久に半額以下になります!』
『何故なら この電話機の中に、新しく開発された電話代を半額にする部品が組み込んであるんです。』
『今世界中にあと2台しか残っていません。 今購入しないと一生後悔しますよ!』
(全部うそです。)
こんな調子で毎日デタラメを並べながら
たたいていますから本当にビックリです。
当然、クレームも毎日のように入るのですが、それすら機関銃トークで丸め込んでしまうのです。
毎日同行して後ろで聞いていると
「きっとこういう人が、振り込め詐欺に手を染めるんだろうな?」と思うほどの嘘八百ぶりでした。
当時は、『こんな環境で僕はやっていけるのだろうか?』
と 僕は毎日不安に駆られながら生きていました。
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