華やかな仕事の舞台裏、そこに未来は無かった。
僕は大学を無事卒業してこの年、社会人の仲間入りをしました。
そして記念すべき初めての就職先は、大手の旅行会社でした。
しかし、大学4年生になってもアルバイトに明け暮れていた僕は、就職が決まっても、学校を卒業できるかどうかの瀬戸際に立たされていました。
大学生最後の試験で、単位を1つでも落とすと留年が決定するという 体たらくぶりでした。
卒業試験前は、友達の友達の友達(殆ど見知らぬ学生)にまでノートや参考資料を借りまくり、必死で勉強したおかげでなんとか単位を無事習得する事ができました。
ぎりぎりセーフながら晴れて卒業&就職という幸せの絶頂を迎えた僕は、この時21歳。
ビジネスマンという言葉に憧れ、右も左もわからない社会人1年生は、夢と希望だけを抱えて、会社という監獄へ初めて足を踏み入れるのでした。
僕の仕事は、旅行という商品をお客様に売る いわばセールスマンです。
一見華やかな仕事に見えたのですが、その実 毎日朝から深夜まで働き通しでサービス残業と休日出勤がふんだんにパッケージ化されていました。
朝早くから1時間以上 満員電車に揺られ、皆同じような服を着て、15時間〜16時間ほど働いて 終電で帰宅するという毎日の積み重ね。
会社が終わって帰ると、家族はみんな寝ているので起こさないように裏口からそっと自分の部屋に入りカップラーメンや余りものを胃に流し込み、風呂に入って寝る。
僕の家はシャワーも追い炊きシステムも無かったので殆ど冷めたお湯に浸かり、うたた寝しながら体を洗っていました。
ささやかな楽しみといえば、たまに寄り道して 深夜の牛丼屋で大盛りにしようか、卵をつけようかなどと考える程度。
時には疲れ果て、気づいたらスーツのままで寝てしまい いつの間にか朝になっていた なんて事は珍しくありませんでした。
面倒くさいので翌日そのままの格好で出社する。
電車の中、しわになったスーツを指して女子高生達がクスクスこちらを見ているが、全く気にもならなくなる。
けれども当時は、これが当たり前の生活という顔をした先輩や上司で周りを包囲され、考える余裕すらない毎日を送り続けていました。
妙に納得した自分がそこにいて、日常の慣れの果てに常識というウソにだんだん染め上げられていく。
やがて魂と人格を抜き取られ何が大切なのか、もはや判断が出来なくなっていった。
今思えば完全に洗脳されていた。
会社に入ってから大事なものを沢山捨てた。
学生時代、僕はスポーツが好きでテニスやビリヤードを趣味にしてプロの試合を東京や大阪まで 時々見に行ったりもしていた。
お酒も好きで大学時代は毎週のように友人と飲みに行ったり、家に遊びに行ったりもした。
アルバイトで貯めたお金で車を買って色々な場所にドライブにも行った。
けれどサラリーマンになってからは、趣味も遊びも だんだん出来なくなっていった。
周りの人からは 『安定した会社に就職できてよかったね。』と言われ、照れくさそうに頷(うなず)きながらも、どこか釈然としない毎日。
たかだか1か月をようやく食いつなげる程度のわずかばかりの給料をあてにする僕のサラリーマン人生。
大切な家族や友人と過ごす貴重な時間のすべてを会社に捧げる僕のサラリーマン人生。
『みんな同じなんだ。』『これが当たり前なんだ。』 と自分の心の中で繰り返しつぶやき、毎日同じ道を通り、昨日と同じような服を着て今日も満員電車に乗り込む僕のサラリーマン人生。
それが僕の初めてのサラリーマン人生でした。